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『八木忠栄詩抄 』
八木忠栄
[ISBN978-4-8120-2044-9]

電子ブックが似合う「八木忠栄詩抄」
          淵上熊太郎

 八木忠栄の「現代詩手帖編集長日録」によると、第1期の編集長を24歳になったばかりの1965年から1969年の4年間勤めている。これは、1966年に入学した私の大学生だった時代とほとんど重なっている。文芸系のクラブに所属して、詩を書き始めた当時の私に、そのころの現代詩手帖は西脇順三郎のような歴史上の人物になりかかっている人から、鈴木志郎康、吉増剛造など、私にとって切実なすぐ先行している世代の詩人まで網羅し、次の時代を考えさせる極めて刺激的な存在だった。その編集長が、2浪の4年生と同じ歳だったというのは驚愕の事実だ。識見ともに優れ、世間のことを解っている、大人を想像していたのだ。
 私が20代の後半になって知り合った当時の印象で言えば、30代の前半のはずだが詩の世界を知り尽くした大人の編集者に見えた。思潮社全体の編集長を務めていたのだから、この印象は当然のことだろう。
 しかし、24歳の編集長は、これからの詩、これからの芸術のことを考え、著者を選び、交渉し、原稿の遅れに悩み、力の限界を感じながらも若さでなんとか乗り切った。そういう姿は、ものを知らない新入生の私たちには想像もつかないものだ。
 つまり、八木忠栄は若くして大人になることを強いられ、見事にそれに応えたとも言える。また、編集者としてだけではなく、生活者としても大人になることをかなり早い時点で選んだ人でもあったと思う。それは、家庭の事情とも絡んでいた。
 ともかく、そんな若く鬱憤を抱えた時代の詩から、名実ともに大人の詩を書き始めた時代、やや人生の斜陽を感じ始めた現在の詩まで、八木忠栄の詩業を概観することのできるのがこの詩抄だ。本人の朗読する姿を見て、耳にして、文字だけではなかなか届かない、詩に込められた怒りや哀惜をより明確に知ることができるのも、電子ブックならではのことだ。ビート詩の影響下に朗読を続けてきた八木忠栄にこそ、この新しい出版方式が似合っている。
登録日: 2013/05/09 投稿: 淵上 熊太郎様

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