中上哲夫
近年の忠栄さんの作品に「ちちははの庭」というのがあって、わたしの好きな詩だ。満開のさくらの古木の下に茣蓙を敷いて年老いた父と母が花見をしているという、ただそれだけの詩なのだけど。「ははは膝の前においた茶をすすり、/ちちはコップ酒をちびりちびりと楽しむ。」「いいお天気で、ござんす。/いいあんべえに咲いたねか。」どこか懐かしい風景で、しんみりしてしまう詩だ。ここに人間の悲哀と滑稽と尊厳とがある。かつて世間に向かって唾をはき、与太を飛ばし、憎まれ口をたたいてきた、べらんめーの忠栄さんの詩だと思うと、もう一度しんみりしてしまうわたしなのだ。